ピンクフロイド/DISCOVERY
「DISCOVERY」はピンクフロイドのオリジナルアルバムをすべてリマスターしたボックスセットのタイトルで、2011年に発売された。以前のテキストでもとりあげたヒプノシスのストーム・トーガソンがアートワークを手掛けている。DISCOVERY、つまり「発見」という意味では、音がよりクリアになったということ以外、新たに発見したことはないが、最近発売されたCDとレコードで「発見」があった。CDでは77年のライヴ音源と、レコードでは74年のライヴ音源である。
77年のライヴ音源は『Live-IN THE FLESH TOUR1977』というタイトルで、アルバム『ANIMALS』と『WISH YOU WERE HERE』の、いずれも全曲が収録されている。オリジナルの『ANIMALS』は主にDOGS、SHEEP、PIGの3曲で構成されているが、中でもDOGSとSHEEPのいわば原曲にあたる曲、それぞれ『You’ve Got to Be Crazy』と『Raving and Drooling』が、74年のライヴ音源として発売された3枚組LPレコード『Live at Empirepool,Wembley,London,Nov16,1974』のなかで演奏されている。また同じく77年ライヴ盤に収録されているアルバム『WISH YOU WERE HERE』のうち、『Shine on You Crazy Diamond』のPart1~5及びPart6~9がパートに分かれず連続したかたちで演奏されている。つまり74年の時点でその後のアルバムに収録することになった曲の原曲が披露されている。ちなみにこのLPの最大の目玉は『The Dark side Of The Moon』の全曲が収録されている。それも当然「4人」のフロイドによるものだ。後年、R.ウォーターズが抜けてからの3人のフロイドでの全曲演奏は存在するが、やはりウォーターズの存在する演奏は非常に重い。ANIMALSの「原曲」に話を戻すと、77年のライヴ盤の演奏に比べ、印象としては少しやわらかいというか、どちらかというと60年代のサイケ的なモチーフもあり、ギルモアのギターもあまり強くない。SHEEPの原曲『Raving and Drooling』はリック・ライトのキーボードが柔らかく響き、歌詞も全くオリジナル版と異なる。DOGSの原曲『You’ve Got to Be Crazy』は、このタイトル名から歌詞が始まることもあり、馴染み深い印象もあるが、これも音としては柔らかい印象を受ける。この2曲の存在はCD『ANIMALS』のなかのライナーノーツで以前から知ってはいたが、実際にそれを聴いたのは初めてだった。その意味で「発見」といえる。また『WISH YOU WERE HERE』の『Shine on You Crazy Diamond』はオリジナル版では前半と後半に分かれていたが、これもこの74年のLPで連続して演奏されている。この時点ではパートに分かれていたわけではないということがわかる。連続されていることで1曲としてのまとまった印象を受け、ギルモアのソリッドで泣きのギターもなく、全体的に優しい印象を受けるし、前述したように60年代を感じさせるモチーフも残っている。これらの体験は「発見」であり、4人のこの時期の演奏のピークを感じる。ピンクフロイドはこの後、アルバム『The Wall』でのライヴを行ってはいるが、ウォーターズが抜けてからはギルモア中心のアルバムとライヴで、物足りなさが否めなかった。しかし今世紀に入って、4人のフロイドのライヴを目にする機会があった。2005年の『LIVE 8』で、この中で4人による演奏が実現している。これはDVDで観ることができる。4人のライヴはおそらくこれが最初で最後であったと思うが、今ではリック・ライトも亡くなっていることだし、それも望めない。『LIVE 8』は世界9か国での音楽イベントで、P.マッカートニーやU2、ザ・フーなど多くのアーティストが参加している。LONDONの会場では「とり」のマッカートニーの前にこの4人のフロイドが演奏している。『The Dark side Of The Moon』から『Breathe』、『Money』他『WISH YOU WERE HERE』と『Comfortably Numb』。『Comfortably Numb』の出だしのボーカルはやはりウォーターズでなければならないことを改めて実感する。『WISH YOU WERE HERE』もウォーターズのボーカルのほうがしっくりくる。昔からのフロイドファンなら涙が出るほどの感動だ。
近年はこうした昔のライヴ音源が多く発売されていて、あらたな「発見」がいまだにできることはありがたいことだと感じる。